BUMP OF CHICKENの進化は続く
バンドの最新モードがわかる
7曲をレビュー

「アカシア」は「ポケットモンスター」シリーズのスペシャルミュージックビデオ「GOTCHA！」のために提供された楽曲。見果てぬ世界を夢見るロマンを描く、とてもBUMP OF CHICKENらしい楽曲だ。2022年7月に幕張メッセで開催された「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 02/10-11」振替公演、約2年8カ月ぶりの有観客ライブでも1曲目に披露された。力強い四つ打ちのドラム、2本のギターが絡み合うバンドサウンド、藤原のボーカルに増川と直井と升が掛け合いのように歌いシャウトを重ねるサビと、ライブ映えする躍動感も曲の魅力になっている。

アニメーション映画「思い、思われ、ふり、ふられ」の主題歌として提供された「Gravity」。イントロから繰り返されるアコースティックギターのフレーズとプログラミングされたビートを軸に組み上げられた、ベッドルームポップ的な風合いを持つ1曲だ。静かに始まり、ゆったりとしたテンポで中盤から後半にかけて徐々に盛り上がる構成で、「♪ラララ」のコーラスとハンドクラップで幕を閉じる終わり方が心地よい余韻を残す。青春の切なさを描く歌詞、「細い指の冷たさが 火傷みたいに残っている」というフレーズにもハッとする。派手さや高揚感はないが、聴き手に親身に寄り添うような優しさを持ち、繰り返し聴いているうちにハマっていくようなタイプの曲。

バンドの結成25周年の記念日である2021年2月11日にリリースされた「Flare」は、アニメや映画、ドラマのために提供されることの多い近年の楽曲の中では珍しくノンタイアップの1曲。「一人じゃないと呟いてみても 感じる痛みは一人のもの」という歌詞の言葉が胸に残る。25周年のアニバーサリーを祝うタイミングでありながら、輝かしい道程を振り返るような華々しい曲ではなく、変わらぬ孤独をモチーフに誠実なタイプの曲を発表するのがBUMP OF CHICKENらしい。イントロとアウトロで増川が弾くギターフレーズには、カントリーやブルーグラスやアイリッシュといったバンドのルーツとなっているトラディショナルな音楽に通じるテイストもある。

NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の主題歌として、2021年の朝を彩った「なないろ」。バンドサウンドに加えて、ストリングス、そしてファンファーレのようなホーンセクションと、BUMP OF CHICKENとしてはかなり壮麗な音色を響かせる1曲となっている。気象予報士の奮闘を描くドラマに合わせて「よく晴れた朝」や「昨夜の雨」など天気を表す言葉を巧みに用いた歌詞も印象的だ。曲名の「なないろ」は歌詞に出てくる「あの日見た虹」を象徴する言葉。傷付き迷いながら歩んでいる現在の自分を過去のピュアな思いの記憶が支えているという歌のメッセージは、バンドが繰り返し歌ってきたことにも重なる。

「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」主題歌の「Small world」は、タイトル通り「小さな世界」をテーマにした1曲。BUMP OF CHICKENの楽曲が描く情景には“壮大さ”と“親密さ”の二通りのベクトルがあるのだが、この曲は後者のタイプだろう。キラキラした浮遊感を漂わせるイントロを経て、冒頭から１分半近くアコースティックギターと藤原のボーカルだけで聴かせ、バンドサウンドに展開していく曲構成で、メロディにも歌声にも、演奏のタッチにも優しさと温かみが宿る。「すみっコぐらし」の物語が描く余韻に通じ合うような、ほかの人には気付かないようなきらめきを丁寧にすくい上げるタッチの曲になっている。

これだけの長いキャリアを持つ4人組のバンドでありながら、エレクトロニックな手法が前提になった現代のグローバルなポップミュージックのトレンドに沿った最先端の音作りに取り組み続けているのもBUMP OF CHICKENの魅力のひとつ。この「クロノスタシス」は、アルバム「Butterflies」の時期に見せたEDMの光沢感とはまた一風違う、隙間が多く風通しのいいエレクトロサウンドが持ち味。グルーヴィに跳ねるサビのリズムもモダンな風合いだ。映画「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」の主題歌として提供された楽曲で、「君のいない 世界の中で」と喪失から再び歩き出す意志を綴る歌詞も胸を打つ。

小気味よいギターと軽やかなビートが爽快な聴き心地をもたらす「SOUVENIR」は、テレビアニメ「SPY×FAMILY」第2クールのオープニング主題歌として提供された1曲だ。全般的に心温まるキュートなポップセンスを感じさせてくれるナンバーで、バンドのアンサンブルも、藤原の歌声も、とてもリズミカル。「歩いて歩いて いつの間にか急いで　あなたに向かう道を」と高揚感と気恥ずかしさが入り混じる感情を歌うサビの歌詞、そしてファルセットで歌うメロディに惹き付けられる。藤原の「ヘイ！」という掛け声からハンドクラップとギターカッティングのリズムが絶妙に絡み合う中盤の展開も聴きどころだ。