こういった毛色の作品には出ていなかったので、自分自身も新鮮でした。僕はどちらかというと、まだ見たことがなかったり、そこまでメジャーではない表現を大切にするタイプですが、恋愛ものはいわゆる“お約束事”のシーンがないと観ている人が物足りなく感じる部分もあるだろうなと思って。作品全体の形を見て、「ここでは（新しい表現を）やってもいいのかな」と、いい塩梅を探りながら演じていく作業が多かったです。

僕は現場で「こうしよう」と話をすることが多いのですが、それに対応していただけるというか、俳優を信頼して自由にやらせてくれる監督だと思います。それと自分の中に明確なイメージがある人。自分たちの表現を一度やらせてくれて、そのうえで「こういうのもちょっとほしいな」と回りくどくなく言ってくれるから、出演者たちも監督が求めているところに近付きたくなるんですよね。

そうですね。タカハタさんは、撮影が半分か3分の2くらいまで終わった時点でもう本編の映像をつないでいたらしくて、まだ撮り終わっていないのに「４時間になっちゃった」と話していました（笑）。監督はそういうのがすごく好きなんですよ。この話（出演オファー）も話している中で「これをやりたいんだ」と相談されました。「ラブストーリーは珍しいね。いいんじゃない？」と返したら、「お前とやりたいんだよ」と言われて、「あっ、俺となんだ」と驚いて（笑）。壁を作らずに相談をしてくれる人なので、信頼できるなと思いながらずっとお付き合いしていますね。

そば打ちデートは衝撃的でした。台本のト書きはほんの少しだったけれど撮影スケジュールは1時間半あって、そば粉をまとめてこねて打って……と最初から最後まで全部やっている間、ずーっとカメラを回していたんですよ。みんなで「絶対に使わないよね？」と言いながら演じていました（笑）。あのシーンではカメラを2台回していたんですが、そのうち1台の（録画用）カードが途中で差し替えられて。映画を撮っていてあの光景を見たのは初めてでした！

ないですよね。でもそれが面白かった。タカハタさんは、俳優の芝居をちゃんと信頼しているけれど、長く演じている最中にふと出るゆるみを楽しむ人なんです。そば打ちのシーンは、波瑠ちゃん演じるみゆきのほうが上手で、僕が演じる悟がうまくいかずにテヘーッとなるパターンかな？と思ったら、実際は僕がめちゃくちゃうまくて（笑）。そういうのも楽しかったな。

きっとやったことがあるんだと思います。陶芸の見習いの役で“練る”経験はあって、それと同じやり方だったので懐かしかったです。本編では描かれないけれど、あの瞬間にキャラクターたちのパーソナルな何かが生まれた気がして、模型を作っているとか、手作業のぬくもりが好きな悟が自分の中で妙にリンクしました。そういう感じで、役の広がりや深みを奇跡的に構築できました。

お皿かな。そういえば、陶芸職人の見習いを演じたときに、先生に言われたことが印象に残っているんです。「俺にしか作れない皿はこれだ！と思う1枚は誰でも作れる。でもみんなが『とりあえずこれでいいか』と買うような皿を作れるようになってからが一人前」という言葉で、芝居にも通ずるものがあるなと思いました。大見得を切って発狂して泣いて、人を刺してという芝居は誰にでもできるけど、普通に座って食事をしたり話したり、ただ泣いている人に寄り添ったり、一見地味な芝居もできるようにならないといけない。そういった思いもあって、この作品で演じた悟の、模型を作ってアナログで3Dにすると見えてくるものがあるという考えにはすごく共感できました。

二宮和也（ニノミヤカズナリ）
1983年6月17日生まれ、東京都出身。1999年に5人組アイドルグループ・嵐のメンバーとしてCDデビュー。個人では2003年公開の「青の炎」で初の映画単独主演を飾り、以降、2006年公開のクリント・イーストウッド監督作「硫黄島からの手紙」、「GANTZ」シリーズ、「ラストレシピ ～麒麟の舌の記憶～」「検察側の罪人」「浅田家！」「TANG タング」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの作品に出演した。2015年公開の「母と暮せば」では、第39回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた。10月スタートのフジテレビ系月9ドラマ「ONE DAY～聖夜のから騒ぎ～」では、大沢たかお、中谷美紀とともに主演を務める。

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